No.210 ゲームで出会った君と(ユメミタ)

不思議
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気づくとそこはゲームの中でした。
現代の技術より進んだVRゲームの世界のようで、ゲーム内のキャラクターの格好で私は喋っています。頭にアヒルのような被り物をかぶってなんとも滑稽な格好をしています。
どうやら私は「最近、怖い夢ばっかり見てる気がするんだ。」と目の前に居る友人に話しているようです。友人は「めっちゃ疲れてるんだろうね~。しっかり睡眠とれないと辛いよね。自分を大切にしてあげてね。じゃないと悲しい。」と真剣に話を聞いてくれています。
アバターの見た目は可愛い美少女だけれど、男性の声をしたこの友人は私がログインするとすぐに飛んでくるようなタイプで、私もそれが嫌ではなかったので常に一緒に居ました。戦いがメインのゲームのようですが、私達は平和な街でただお喋りをして時々必要な素材があればフィールドに取りに行くと言う感じで過ごしていました。
この日も暫く一緒にお話をして楽しんでいると私は操作を間違えてしまい、近くに居た知らないアバターに攻撃モーションを繰り出してしまいました。すぐに「すみません!!」と謝ったのですが、そのアバターはこちらへ近づいて来て1度攻撃モーションをしてきました。
見た目は全身西洋風の甲冑姿で、顔も見えず、終始無言でした。
(お互いに攻撃モーションをしたし、謝ったし、許してくれたかな?)と不安に思っていると、しばらく間を置いてから何度も私に対して攻撃をしかけてきました。幸いPVPでHPが減る設定ではない街のようでした。だけれど無言で攻撃をし続けて来るアバターに対し私は恐怖を感じました。
友人であるあの可愛い女の子のアバターが私と甲冑の間に入ります。私に背を向けて「なんかヤバそうだし、とにかく逃げて!」「ちゃんと謝ったんだから攻撃やめてください!」と私を助けてくれたのです。なんでそこまでしてくれるのか分かりませんでしたが、騒ぎを聞きつけた他の人が集まってきて私は穴があったら入りたい状態になりました。
そんな時、目の前に「新着メッセージがとどきました」と言う表示が現れます。そこには、「新しいワールドが作成されました!行ってみますか?」と書かれています。兎に角この場から逃げたかったので、私は友人に「ごめん!本当にごめん!」と言って「はい」のボタンを押しました。すると眩い光に包まれ、新しく作られたと言うワールドに到着します。
そこには私だけ居て、辺りは砂漠のように黄色い砂があるだけでした。先ほどの場所にもどろうにも、ゲームを終了しようにも、なぜかメニュー画面が出てきません。「どうしよう!」と思っていた時に耳元で「エラーを検出しました。」とブザーが鳴り響きます。
数回ブザーが鳴った後に、足元が崩れ、砂の下から現れたゴツゴツした岩と岩の間を転落していきます。恐ろしい恐怖でした。操作が何もききません。体を動かせないのです。だんだんと辺りが薄暗くなってきました。地上に空いた穴から地下へ地下へとどんどん転落していきます。かと思えば水面が見え、地底湖のような場所へ沈んでいきます。
その時、地底湖の中からギョロっとした目玉が見えました。巨大な龍がこちらを睨んでいます。目玉ですら私の全身より大きな龍です。「うわ!怖い!!」と思った瞬間、その龍は大きな口を開いて私を飲み込みました。
「あの時、ログアウトする手段とか色々あったんじゃないかな…。」と色々後悔しながら目を閉じたのですが、耳元で何やら音がします。「ゲーム△△の大型アップデートは×月△日配信予定!」と。「え?」と思い目を開くと、私の手にはスマートホンが握られていました。
ゲームの世界ではなく現実の世界に戻っていました。
その画面には先ほど私が飲み込まれた竜の絵が映し出されている動画が流れていて、夢の中で私がプレイしていたゲームのアップデート告知・広告動画だという事が分かりました。
心から「なんだ、よかった。」と、ホッとして「広告を飛ばす」をタップすると、画面には眼鏡をかけた色白の細身の男性が映し出されていました。その人は現実では全く知らない人なのですが、夢の中において配信者として有名人のようで、同時視聴者も凄い数でした。
スマホの中で「今日は街中の人に声をかけて、飲みに連れて行ってもらえるか検証します!」などと言っています。
「あ、あのー。今〇〇で配信してるんですが、僕と一緒に飲んでくれません?!」と道を歩く人に聞いています。何人もの人に断られて「うーんやっぱりこの企画はダメかな?」と言っていると、ホストのような装いをした男性が「え、飲み?あーイイよ。」と了承しました。
そのホスト風な男性に対し、コメント欄も「神。」「めっちゃやさしくない?」「どうせ、高い所連れていかれて放置されるんだ。」「罠だろ。」と大盛り上がりを見せていました。
意外にもそのホストのような男性は本当に良い人だったようで、楽しくおしゃれなバーでお酒を飲んでいる映像が映っていました。あまりに楽しかったのか、配信者男性は酔いつぶれてバーの中で寝てしまいました。
寝る男性に対して、ホスト系の男は毛布のようなものを掛けてあげていて、さらにコメント欄は大盛り上がりしていました。「優しい!素敵!」と興奮したようなコメントも沢山流れていました。他にも「これ、どうするんだ?家帰れるんか?」と心配する声もありました。
暫く寝姿が映し出されていたのですが、途中寝ぼけながら眼鏡をとった配信者の男はアイドルのような美しい顔をしていてすぐさまファンたちが騒ぎました。「イケメンすぎ!」「可愛いw」「眼鏡でここまでかわるんか」「陽キャじゃん。」「釣られたんか俺ら?」と。
そうしてホスト系の男が「あ、配信忘れてた。切り方これかな?」とスマホの前に現れ、コメント達が「やめて―!」「切らないで!」と叫びだしたのでホスト系の男性は「皆ごめんね!配信切らなきゃだ~!」と、手を合わせウインクしながらゴメンポーズをとっています。その優しさにコメントの人々はメロメロ。
そしてすぐに配信終了の画面が出ました。それらの切り抜きがすぐに動画サイトに上げられていて、ホストの人の人気と同時に、素顔がイケメンだった配信者の男はもも人気に火がつく結果となりました。
「世の中、いろんな事があるんだなー。」と思っていると、私のスマホに電話がかかります。名前も見ないうちに誤タップで出てしまうと「あ、えーっと、〇〇くんのお知り合いですか?」と声がします。
「〇〇君は知らないですけど…誰ですか。」と言うと、「あ、えっと、〇〇くんの代わりに今電話をさせてもらっている□□と申します。貴方はえっと…△△ゲーム…××さん?」と返答がきました。△△ゲームと言う名前は先ほど夢の中で私が転落していったVRゲームの名前。××さんとはそのゲーム内で私が自分のアバターに付けているキャラクター名。
「え、あ。はい。私の名前ですけれど…。」と言うと、「あ!良かった!〇〇くんは…知らないんだよねー…。でも電話帳に唯一君の電話番号があったから、かけさせてもらったんだけど…あれー?」と混乱しています。私も電話口の相手もお互い頭の中が「???」状態です。
それなら、電話の通話画面を見て登録している名前を確認しよう!と思ったのですが、運悪く電話番号名で登録しており、「000-0000-××××」と表示されていて誰だか分かりません。
一度落ち着いて考え、そのVRゲームで私を知っているフレンドの誰かに急を要する何か特別な事情が起こったのか?と思いました。さらに最悪な事に、もしもの為にと電話番号を交換しているフレンドは割といたので、誰か特定する事もできません。
とすると突然「あの…いきなり失礼な質問なのですが、今〇〇市に来る事って可能ですか?」と言われます。丁度その市の隣町のカフェに入って配信を見終えて暇になっていた私は「あー‥。今その市近くのカフェに居るので行けない事はないですけど…。」と言うと、食い気味で「え!ありがとう~!困ってたんだ!場所は…。」と住所を述べてきました。
それから、地図アプリで指定された場所を把握してタクシーにしばらく乗ったあと、少しだけ歩いて目的地に到着しました。不思議と不安などは無く、タクシーを降りてからもスタスタ歩いていました。目的地にはビルがあり、またしても私は平常心でビル内の階段を登ります。そして3階につくと、マンションの扉のような小さい扉に「〇〇bar」と書かれた看板がつるされています。
(あれ?このbarって、配信であの人が行ってた所だよな…。)と思いながら扉を開くと、ビンゴ。カウンター席では毛布をかけられ寝ている配信者の男が居ました。そして先ほどスマートホンの画面でみていたホスト系の男も居ます。
「あ!来た~!助かりましたよ~!」と私に駆け寄るホスト系の男。話を聞くと、「配信が終わって、スマホの中を確認したらSNSや会話アプリ類は一切入ってなくて、電話帳にの名前君しか無かったんですよ。」「最悪電話が繋がって、〇〇くんの知り合いでも紹介していただければと連絡させていただいたんです。」と言うではありませんか。
私はホスト系の男のトークスキルに驚きながらも、(なんで巻き込まれてるんだろう。)と思いながら、「スマホちょっと貸してください。」と配信者の男のスマホの中身を見ました。
ホスト系の男が言う様に、彼が誰なのか分かる様なものが何も入っていませんでした。そして電話帳には私の電話番号が1つだけ。薄気味悪さを感じながらも、なぜなのか聞きだすまでは帰える事は出来ないと思い、介抱する事に決めます。
とりあえず、バーのマスターさんが明日朝が早いと言う事で店を閉めたがっている&ホスト系の方は本当に夜のお仕事へ向かわなければならない時間だった為、私はカウンターで寝ている配信者の男へと話しかけました。
「あのー〇〇さん…目を覚ましてくださいー。もう帰りますよ~。」と。すると、「んー…あれぇ…××っちの声がする…。」と眠い目を擦りながら言いました。その時初めてこの人が誰なのか分かりました。ゲームの中の私を「××っち」と呼ぶのはただ一人だったからです。
目の前で酔いつぶれている配信者の正体、それは夢の中で私がプレイしていたゲームで友人、あの美少女アバターでした。
そう、私が他プレイヤーに攻撃を受けている時に間に入って「逃げて!」と言ったあの子。アバター同士なので中の人なんて知りませんでした。ただ、ゲーム内で何度も聞いた呼び声に一瞬で気づくことは容易でした。
「なるほどなぁ…。」と私は状況を理解して、ホスト系の男へ「どうやら知り合いでした。ゲームの中だけの友達だったんです。リアルで会うのは初です。」と伝えると、「まじ?!え、初めてがこんな状況でごめんね!」と何故か謝っています。
「お優しいですね。大丈夫ですよ、それよりご迷惑をおかけしました。」と私がお辞儀をすると「ぜんぜん!楽しい時間過ごせたし、ただバーのマスターも俺もこれから用事があって放置するのもダメだよねって思って…。」と困り顔で言っていました。
二人して「あはは、お互い大変でしたね。」と笑って私はもう一度、配信者の男の耳元で「□□さん(アバター名)私は××っち(アバター名)ですよ。リアルです。さ、帰りますよ~。」と聞きなれているであろう名前を呼びました。すると笑みをこぼしながら「ふぇ?あれ?なんでここに~?わぁ!本物だぁ!」とフワフワしながら返事をしました。
私は半ば呆れ気味で「そうです。ささ、帰りますよ~。」と言うと「ふぁい…。」と眠い目を擦っています。と言っても体はあまり力が入らないようだったので、私は彼を背負って店を出ました。重たい…。私より背負っている人の方が長身なのでそりゃ重たい。
店を出る時にホスト系の男と、その店のマスターは「大丈夫?」と心配していましたが、私は強がって「平気です!力ありますので!それより本当にご迷惑をおかけしました。」と笑って店を出ました。
暫く歩いて気づいたのですが、私は彼の家の住所を知りません。どうしようと困って、結局近くのホテルに泊まる事にしました。チェックインをすませ、ベッドに寝かせて、お水を飲むよう促しました。
そうしているとベッドに寝ころびながら「まさか本物に会えると思わなかったよー…。僕リアルで友達居ないし、ゲームの中でも君しか友達いないんだ。」とグズグズ言い始めました。
「だから電話帳に私の電話番号だけだったんですか?」と聞くと、「そう。配信とかゲームの遊びの為に買ったスマホなんだけど…お察しの通り…友達居ないから。」と泣きそうな顔をしています。つづけて、家族の電話番号が入った私生活用のスマホは家に置いてきていたと述べました。SNSなどについては、人気配信者ならではのマネージャーが管理しているらしい。
そして泣き上戸なのか目を真っ赤にして「ごめんね。初めて会うのに凄い迷惑かけて。嫌になったよね。ゲームのフレンドも解除していいから。本当に…」と泣き出しました。私は「何をそんなに怖がっているの?」と聞くと、それには答えてくれませんでした。
それから「ゲームのフレンド解除しないよ。だって、私を助けてくれたじゃないですか。」と言いました。すると「君は僕をいつも助けてくれるけれど、僕が君を助けた事は無かったよ。」と鼻声で返ってきました。
「でも…。」と私が言いかけた時、ゲーム内で助けてくれたこと自体が夢だと気づきました。そして、その夢の内容を包み隠さず話しました。すると「なんか、僕が役得な夢だよね。でも、なんだろう凄い嬉しい。夢でも遊んでくれてたんだ。××っち~…」とまた泣き出しました。
それから、「安心してくださいね。まあ、精神面で助けられているってことで!」と私はあっけらかんとした声で言い、「飲み物が何もないみたいだから外のコンビニで買ってきます。」と一声かけて、ホテルの外へと出ました。
ホテルの真正面にあるコンビニで、軽食と飲み物、二日酔い対策の薬を買って「夢の中じゃ助けられたのに、現実世界では自分が助けてるって、凄い変な感じだ…」と思いながらホテルへ戻ろうとした瞬間に、体が動かなくなりました。
「あ、これ金縛りだわ。」と冷静になれたのは、こういった経験を何度もしてきてるからでしょう。大抵こうなると、今までの内容が全て夢だったと言う事に気が付きます。
金縛りと同時にけたたましい耳鳴りが鳴り、硬直したまま「なんだ夢だったのか~。久しぶりに面白そうな夢だったのに…でも、夢かー。」と少し寂しく思っていました。
長い長い夢を見た気がする時は、大抵現実世界では大して時間が経っていない事が多いのですが、案の定2時間程の睡眠だったようです。知らないプレイヤーに襲われたり、転落したりと怖い思いもしましたが、内容的には結構面白い夢だったので私的には満足できました。
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