No.156 君は誰なんだろう(ユメミタ)

悲しみ
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私はマンションのベランダに立っていた。とても悲しい気持ちで、夜空を見上げている。何がそんなに悲しいのかは分からないが、酷く胸が締め付けられる気がした。
すると、足元にフワッとした毛のようなものが当たる。ビックリして足元を見てみると、そこには1匹の犬が居た。中型犬くらいの大きさで、顔がとても綺麗な犬だった。毛は長めで所々フワフワっとウェーブのかかったような毛をしている。耳は大きく垂れさがり、白と茶色の毛が混ざっていて、とても人懐っこい様子だった。残念ながらその犬の事を知らないどころか、犬種すら分からなかった。
しかし、とても優しい雰囲気をしていて、気が付くと私はその犬の頭をゆっくりと撫でていた。撫でる度に、気持ちが良さそうに目を細めて、しっぽを振っている。何か餌をあげられないかな?と思い「ちょっとまってね」と言って、ベランダから室内へ入った。
鳥のささ身を湯がいた物が冷蔵庫にあり、急いで戻る。「おまたせ!」と、ベランダへ出たが、そこに犬は居なかった。「どこに行ったのだろう?」なんて事を始めは考えていたが、ここはマンションの3階。ペットの飼育も禁止されている。「どこから現れて、どこへ消えていったのか?」。その疑問を頭に思い浮かべた時、凄く悲しい気持ちが押し寄せていた。何か大事なものが無くなったような、そんな気持ちだった。
ふっと気が付くと、またシーンは夜になっていた。
その日は、昼間外で何かあったようで心がまたモヤモヤとしていた。恥をかいたときに似ているような嫌なモヤモヤだった。「はぁ…。」とため息をついてベッドへ腰かけた瞬間、何かが窓ガラスを叩く音がする。ドンドンではなく、物があたるような「カツカツ」と言う小さな音だったが、私はその音がとても気になり、カーテンを開けた。
すると、そこにはあの犬が居た。私の顔を見た瞬間に「ヘッヘッヘ」と舌を出しながら、興奮した様子。自身の足爪を使い、窓のガラスをカリカリと掻いている。私は先ほどまでの気持ちがぱっと晴れ、急いで窓のカギを開けた。すると犬が私の足にピッタリとくっつき、まるで「頭を撫でて」と言っているように見えた。この日も頭を撫でた。
しばらく犬とじゃれあっていると、恐ろしい程急に眠気がやってきた。私は「ふわぁ~」と大きなあくびをして目を擦った。「もう眠いや~」と犬に語り掛けながら目を開けると、そこに犬は居なかった。
そしてまた別の日の夜へシーンが飛ぶ。
この日の夜、私ははじめて「あの犬が来ないかな!」と、自らベランダに立って待っていた。会えたら嬉しいな。と強く願っていたと思う。今日もし会えたら、お家の中に入れてあげよう!そして名前をつけて、美味しいものを食べてもらおう!と、ウキウキしていたと思う。
どうやって現れるのかも気になっていたが、その日は「クゥン…」と言う鳴き声を聞き、その声の方を見てみるといつの間にかそこに居た。
犬はいつもの様子とは違い、よぼよぼとこちらに寄って来た。まるで老犬のよう。足が片方思うようにうごかず、引きずるように歩いており、目は半開き。最後の力を振り絞っているように見えた。私は急いでその犬を抱き上げ、家の中へ連れて入った。
すると、部屋の奥に私以外の人が居る気配がする。なぜか誰かに見つかる事が凄く不安だった。しかし現れたのは仲の良い兄で、ひょっこり顔を覗かせ「大丈夫なの?ここペット禁止でしょう?」と、優しく否定はせず聞いてくる。私は兄に「この犬、もう先が長くなさそう。だから、最後だけでも一緒に居させて。」と真面目な顔で言ったと思う。
兄はそれに対し「そうか…それは…。」と言い、家の外へと出て行った。
私は犬をベッド上にのせ、水を飲ませるために、スポイトを探していた。小さなスポイトが見つかり、急いで水を汲み戻る。犬を見ると、先ほどからそんなに時間が経っているわけはないが、一層弱々しくなっているのが分かった。
「生きて」と声をかけながら目線を合わせ、水を少し飲ませてから頭を撫でる。その度に、涙がこみ上げて泣きそうになるが、なんとか泣かないように必死に耐えながら笑顔で「大丈夫、大丈夫だからね」と何度も何度も声を掛けた。
頭を撫でていると、耐えられない程の眠気がやってきた。犬の顔を見ると同じようにとても眠そうにしている。それはきっと命が終わろうとしていたのだと思う。私は眠気に耐えながら「よく頑張ったね。偉いね。」と頭を撫で、犬の前で顔を伏せた。
すると、私の顔と手の間にフワッとした物が近づいてきた。あの犬が最後の力を振り絞って私に近づいて来てくれたのだとすぐに分かった。が、酷い眠気に目が開かず、弱った犬の息づかいを感じながら、私は目を閉じたまま最後に犬の体を撫でた。
私が眠りに落ちるほんの少し前、犬の息が停止するのが分かった。私はその事に対し何かを感じる余裕もなく意識を失ったのだった。
それから夢の中で夢を見た。それは昔飼っていた愛犬の事だった。初めて会って、車で連れて帰るシーン。お座りを覚えさせるシーン、走り回っているシーン。懐かしいなと幸せな気持ちになった。と同時に、先ほどの犬の最後を思い出し、愛犬も同じように弱っていき息を引き取ったなと鮮明に思い出した。
そして、愛犬を飼い始めたのは兄の一声からはじまったが、その兄は仕事の都合で実家をでて、愛犬とは年に1度・2度会うくらいになっていた事。兄が結婚式をする2日前に愛犬が息を引き取った事。亡くなった事を兄に伝えた時の反応などを一気に思い出す。
全てのシーンが鮮明に思い出され、私は胸が苦しくなった。
ハッ目を覚ますと、そこは現実世界。私は普段使用しているベッドの上に寝ていて、勿論先ほどの犬も居ない。夢の内容と、昔飼っていた愛犬の最後の姿を思い出し涙が止まらなくなる。
しばらく泣いて落ち着くと、あの犬の事について調べてみたくなった。中型犬とネットで調べると、すぐに答えが出てきた。夢で見た犬は「イングリッシュ・コッカー・スパニエル」と言う名前の犬のようだ。犬にはあまり詳しくない為、この時初めて知った犬種だったが、夢の中であったあの犬に間違いなかった。
なぜ、イングリッシュ・コッカー・スパニエルが夢に出てきたのかは分からない。もしかしたら、昔飼っていた愛犬が今はイングリッシュ・コッカー・スパニエルへと姿を変えて生まれ変わっているのかもしれない。
もしそうならば、誰かに愛されていて、寂しい思いをしていなければ良いなとそう思う。
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