ぼろぼろのコンクリートが視界に入り、それが天井の一部であることに気がつく。体は汗にまみれ、ひどくべたりとしている。俺は、ゆっくりと体を起こす。すると、女性が立っていた。
吸い込まれそうに黒々とした髪と、ひとすじに結んだ唇、土や砂で汚れてはいるが、色白の肌。とがった顎。愛でるでも哀れむでもなく、他人のつけ入る余地のない、淡々とした視線。裾があちこち破れて、いるワンピースと、ショールのように羽織った布。腰には身体の細さと不釣り合いな太い剣を差している。
俺が起きたことを確認すると、彼女は無言で扉へ歩き出した。彼女に話しかけてみても聞こえていないのか聞く気がないのか、まったく反応しない。それでも「まってくれ」と声をかけながら、俺は急いで部屋を出ようとする彼女の後を追った。扉がゆっくり開かれると、目の奥に光が刺した。
鬱そうと緑が生い茂る、巨大な空間が見える。そこがショッピングモールの吹き抜けであることに気が付くまで、しばらく時間がかかった。その光景に吸い込まれるように、俺はいつの間にか彼女の3歩ほど前に出る。
俺たち以外の人物は確認できず、人類が滅亡した後の世界のようだった。そんな光景を目の当たりにし、しばらくあっけにとられていたが、ふと後ろを振り返る。佇む彼女の背後に、おぞましい怪物が、なだれのように押し寄せてきている。
「あぶない!」と俺が叫ぶと、その声と同時に彼女は刃を抜く。俺も戦わねばと腰に差してあった剣に手をかけた。(どう戦えば良いのだ?)と考えている間にも、彼女は既に怪物を薙ぎ払いはじめていた。
怪物の腕を、足を、そして醜い腹を次々と切り裂いていく。くるくると、まるで踊っているかのように怪物を切り裂いている彼女のその姿を見て、俺も急いで戦いに加わった。
永遠と思える時間がたち、どれほどの怪物に刃を突き刺したのか分からなくなり、頭にぼんやりとした霞みがかかる。それでも生きようと必死に身体は動き続ける。”小さい扉”を背に刃を振り続けた。
目がかすみ、あがらなくなった腕を見つめ…「もうだめか」と覚悟を決めた次の瞬間、背後にあった小さい扉が開いた。俺は、ドシンという音と共に、扉の中へと尻もちをついてしまう。
「やばい!」と思った次の瞬間、目の前に怪物の恐ろしい顔が迫り来る。『殺される』そう思った瞬間、彼女はその小さな扉を外から閉じた。しんとした空気のなかに彼女はいない。扉の中に入ったのは自分だけだ。彼女は…俺だけを助けたのだ。彼女が扉を閉める際、最後に発した言葉が耳鳴りとなってずきずきと頭に響く。
『私はあなたが好きだった』
俺は大きく叫ぶ。その叫び声なのか悲鳴なのかも分からぬ声と共に目が覚めると、そこはボロボロのコンクリートの天井。体は汗にまみれ、ひどくべたりとしている。俺は、ゆっくりと体を起こす。すると…そこには…と、何度も何度も話が繰り返されるような夢でした。