No.48 お婆さんの謝罪(ユメミタ)

悲しみ
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昔は何か行事がある度に、沢山の親戚が僕の家に集まっていましたその中でも一番ご高齢だったお婆さんと僕は仲が良く、昔どのような生活を送っていたのかなどの話を聞くのが楽しみでした。
しかし、ある年からお婆さんの様子は「おかしく」なりました。すぐ怒る、話しかけても答えない、どこを見ているのか分からない。後で「認知症」だったと僕は知ります。当時そんな事を知らなかった僕は、変わっていくお婆さんが心配でなりませんでした。僕の心配に拍車をかけたのは、周囲の大人達の反応でした。
お婆さんも家に遊びに来るとなれば、家はどんより暗い雰囲気になり、まるで「来なくていいよ」と言葉には出さないにせよ、ひしひし伝わってきました。お婆さんが帰れば「やれやれ‥」とホッとしている姿を何度も見てきました。
お婆さんは、テレビに映るテロップをずっと大きな声で読み上げては、気に入らなければ怒鳴り、時には暴れました。僕はなんだか「大きい子供だ!」と興味津々になり、お婆さんの隣で一緒にテロップを叫んだりして遊びました。
何度も怒鳴られ、「馬鹿!」と暴言を吐かれたけれど、僕は「馬鹿じゃないけど、天才でもないよ〜。」と言い返して遊んでいました。
地味にこの時間が好きでした。大人数集まると、大人はいつも忙しそうに動いているし、子供も仲の良い者同士でつるんでいるから、僕はひとりぼっちになる事が多かったのです。だから、ずっと賑やかなお婆さんの近くに居ると寂しくなかったのです。
僕はある日夢を見ました。平和な夢だったのですが、だんだんと夢の映像が歪んでいきます。出てくる人物の輪郭が歪み、次々と鳥の顔になっていきます。顔は鳥で、体は人間の鳥人間。その光景はとても不気味で、その場にしゃがみ込みました。すると、遠くから「ポン‥ポン‥」と、木魚の音が聞こえます。
その木魚の音はだんだんと僕の耳元に近づきます。しかし怖いという感じはなく、逆に安心するような音でした。木魚の音に集中していると、僕は背後から肩をトントンと2回叩かれました。振り返ると、そこにはお婆さんが立っていたのです。
「お婆さんだ!」と僕が嬉しそうに言うと、お婆さんは「いつも迷惑かけてごめんなさいね‥」といきなり謝ってきました。僕はびっくりして「何で謝るん?別に迷惑かけてないで!」というと、お婆さんは何度も「ごめんな、ごめんな‥」と‥。
僕の声はもしかしてお婆さんには届いていない?と思うように、お婆さんは一方的に謝り続けました。拝むようなポーズをとって、何度も手を擦り合わせながら、謝っていました。
僕は(本当に謝る必要ないのに!)と強く思って「大丈夫!お婆さんの事を迷惑と思ってないし、謝らなくていいよ!!」と大きな声で伝えました。すると、お婆さんは優しい笑顔で「◯◯ちゃん、ありがとうねぇ‥こんな良い子に育って‥嬉しいよ‥。」と頭を撫でながら言ってくれました。
何より、久しぶりにお婆さんが僕の名前を呼んでくれたことが嬉しかったのです。お婆さんが認知症を発症してからは1度も呼んでくれなかった僕の名前を呼んでくれた!と、凄く嬉しくなりました。
僕は「お婆さん、今年の年末もまた家にくるよね?また遊ぼう!それまで元気でいてよ!!」と言ったら、お婆さんは「それはどうかね〜‥。私は年寄りだから‥でも、ありがとうね。」と、僕の頭を撫でた後に、握手をしてくれました。
シワシワで、ちょっと力を入れたら折れてしまいそうな細い指。あぁ、お婆さんの手だなと、その手を両手で優しく包みました。すると、遠くで「シャンッ」と鈴の音が聞こえます。お婆さんは「もう帰らないといけないみたい‥◯◯ちゃん、さようなら。元気でね。」と、僕と手を繋いだまま言いました。
僕はこの手を離したら、もう2度と会えないような気がして「行かんでや!」とわがままを言ったのですが、お婆さんはまたこちらの声が聞こえないようです。
僕の声を遮りながら「ありがとうね、◯◯ちゃん。会えてとっても嬉しかったわ〜。私は幸せ者です。それじゃあね、さようなら。」と言って、優しく繋いでいた手を解きました。お婆さんの姿がだんだん薄くなり、背景と溶け込み消えてしまいました。
僕は不思議な気持ちのまま目を覚ました。
「おはよう。」と、リビングへ行くと、父親が暗い顔をして「〇〇家のお婆さんが夜中に亡くなった。」と、母親に話しています。僕はポカーンとその場にしばらく立っていました。現実を受け止めるのに少しかかったけれど、部屋に戻って色々と考えました。
「お婆さんは、最後に僕に謝りたかったんかな?それで会いにきてくれたんかな‥。」考えても分かりません。ですが、僕は心の中でもう一度「夢に出てきてくれてありがとう。」と、感謝しました。
現実を受け止めたと思ったのですが、その瞬間、たくさんの涙が流れました。
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