No.100 逆さまのフラミンゴ(ユメミタ)

不思議
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グロテスクな表現があります。苦手な方はご注意ください。
普通の夢を見ていたはずだった。家の前の道を散歩するようなのどかな夢を。そんな夢がだんだんと霧に覆われ歪んでいく。
霧が晴れると、先ほどまで目の前にあった電柱の場所にフラミンゴが居た。そのフラミンゴは器用にバランスを取りながら逆さまの状態で目を閉じている。何故だかこの時、私はその光景に対して何の違和感も覚えず「家へ戻ろう」とだけ思ったのだ。
裏口から家へ入ろうとすると、外に面した風呂場の窓から大きな目玉が2つこちらを覗いている。地面にあるマンホールからは黒いモヤが現れ、足にまとわりついてくる。
すると道路側の門から生気の失った女性が入ってきた。私の目の前まで来ると何をするわけでもなく立ち尽くしていた。次にどこからともなく現れた幼稚園児くらいの男の子が門から走って入ってくる。すると男の子は怖がりもせず女性の元へ駆け寄り、女性の手を握った。
女性は男の子の方を見ると、目線を合わせるかのように屈みこんだ。その瞬間、男の子は女性の胸を触った。触られた女性は、まるで生気が戻ったかのように恥じらいを見せた。
僕はそんな目の前のカオスな光景に対してやはり何も感じる事がないまま、家の中へと入った。
するとそこには家族が居る。薄暗い部屋の中、テレビで何かをみている。「ただいま」と言うこちらの声にも反応せず、背中を向けたままだった。テーブルの上にはレンタルDVDの袋が置いてあり、どうやら借りてきた映画かなにかを見ている様子だ。僕もどんなものを見ているのか気になりテレビの方へと目をやった。
その瞬間、画面が真っ赤に染まる。ここから先は見ない方が良い気がすると僕は家族に必死に伝えるが、誰一人として画面から目を離す事はなかった。リモコンの停止ボタンを押すのだが、止まる事のない映像。
映像は薄暗い部屋へと切り替わる。真っ赤な襦袢を着た女性が表れて動物の皮膚を切り裂いて高笑いをしている。そんな映像にも関わらず、家族は動かずじっと見入っている。僕はそんな光景に初めて動揺し、この場から逃げたくて家の外へと飛び出した。
するとそこにはフラミンゴが居た。先ほどとは比べ物にならないくらい巨大化した姿。またしても器用に逆さまになって目を閉じている。風呂場の窓からは先ほどと同じように目玉が見ている。まるで「お前、大丈夫か?」という視線を送っているように感じられ、僕は凄くほっとした。
すると足場のマンホールから現れた黒いモヤが僕の手を引こうと、モヤの形状を変えて男性の影の形になる。とても紳士的に「一緒に行きましょう」と言わんばかりに。
恐ろしいはずなのに凄く居心地の良い感覚。しかし、ついて行ってはいけない気がして断ると、黒いモヤは人型を保てなくなり崩れて消えていった。風呂場の窓を見ると、目玉も居なくなっている。
巨大な逆さまのフラミンゴは、ゆっくりと羽を羽ばたかせていた。
狂っていた風景が徐々に普通の風景へと戻っていく。その瞬間とても切ない気分になる。心臓が張り裂けそうになるようなそんな気分に。きちんとこの光景を覚えておきたくて、僕は消えゆく逆さまのフラミンゴを見た。するとだんだんと姿が薄れていくフラミンゴの目が開いた。
その目に吸い込まれる感覚になり僕はハッと目を覚ました。
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