No.190 恐れと優しさの車内(ユメミタ)

不安から安心
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夢の中で私は子供の姿になっていた。しかし本当の自分の姿ではなく誰なのかは分からない。
私の両サイドには、男の子と女の子が居て、目の前には3人の大人が居る。左から順に、筋肉質で大きな体格の男性、黒いサングラスと赤い口紅が特徴的な女性、細身で無表情の男性。皆、綺麗なスーツや宝石を着用していていかにも金持ちだと分かった。
ガラスの壁の向こうには、別の大人が見えた。ガラスの壁の向こうにある机の上には札束が置かれていて、黒いスーツを着た男が、見窄らしい格好をした大人3人に話をしている。その時、大人の1人が自分の母だと分かった途端、とてつもない虚しさに襲われた。お金を分配し終わると、母達はこちらをみる事もなく早々と部屋を後にした。
残ったのは、私たち子供3人と目の前にいる大人3人。きっと酷いことをされるんだと私たちは団子のように丸まりながらくっついてガタガタ震えた。
真ん中に立っていた赤い口紅の女性が「取引は終わったみたいね。行くわよ。」と言うと、女性の両脇に立っていた男性2人が私たちのそばに近づいた。男の子と女の子は筋肉質な男に抱えられ、自分は細身の無表情な男に手を引っ張られた。筋肉質な男に抱えられた男の子と女の子は、うわんうわん泣きながら暴れている。しかし、筋肉質な男にその攻撃は効いていないようだ。
自分は虚しさを感じながら、逆らうと言う選択肢がまるで無いように従順について行く。建物の外に出ると、眩しい日の光に目が眩んだ。目の前には、真っ赤なスポーツカーと、黒塗りのセダンが停まっている。真っ赤なスポーツカーの助手席に、真っ赤な口紅の女が乗り込み「早くなさい。」と苛立った口調で急かす。
無表情の男はエスコートするかのように私を赤いスポーツカーの後部座席に乗せて、シートベルトを閉めた。隣を見ると黒いセダンの車には男の子と女の子が座らされ、きちんとシートベルトを付けられている。窓越しにそのような光景を見ていると、無表情の男が運転席に座り車を出発させた。
私が乗る赤のスポーツカーの後ろには、男の子と女の子が乗る黒いセダンがピッタリとくっつき走っている。どこに連れて行かれるんだろうと言う恐怖と共に、赤い口紅をつけた女性の事を「怖い」と感じている自分がいた。無表情の男性や、筋肉質な男性に対しては怖い感情はなかった。女性の喋り方がキツそうだったからなのか、強い恐怖と圧を感じていた。嫌だな…怖いな、どこに行くんだろう。と言う、緊張や不安に押しつぶされ、とても疲れていたのか次第にウトウトして眠ってしまった。
ガタンと言う振動で目が覚めると、そこはガソリンスタンドだった。急にトイレに行きたくなりモジモジしていると赤い口紅の女性が「あんた、トイレ?はぁ…もーやぁね!!早くそう言う事は言いなさい。とろいわねー!」と言って乱暴に車から降ろしてくれた。自分はその女性の事がやはり怖くて「ごめんなさいごめんなさい」と言ってその場に固まり泣いてしまった。赤い口紅の女性は「あーもう!!」と大声を出した後、無表情の男に「あんたに任せるわ」と言って、ガソリンスタンドに併設する小さなショッピングモールの中へと消えていった。
無表情の男は自分の前に来て、トイレのマークを指差した後、手を繋ぎトイレまで案内してくれたが、トイレといってもボットん便所でとても汚く、汚さないように用を足すのが大変だった。黒いセダンに乗っていた筋肉質な男と男の子と女の子も、この車の後ろをずっとつけて来ていたようで、トイレを出た所でばったり会った。少しだけ「大丈夫?」「怖い事されてない?」と子供同士で話したように思う。
それからすぐ、無表情の男が「終わったか?」と小声で声をかけてきて、車の方へとまた案内された。彼に対して、私は凄い安心していた。無害というのだろうか、絶対に傷つけたりしない人に思えたからだ。車に戻って待っていると、大きな袋を持った赤い口紅の女性が戻ってくる。
先に黒いセダンへ行き、袋をいくつか渡した後に自分が乗る赤いスポーツカーへ来たと思うと、勢いよく扉を開けて「あんた汚いから早くこれに着替えて!!!」と言われた。袋の中は買ったばかりであろう服や靴や下着が詰められているのが見えた。女性なりの優しさなのだろうと分かっても、圧と恐怖に耐えられず、「ごめんなさいごめんなさい」と泣いてしまうと、赤い口紅の女性は「はぁ…」とため息をついて助手席に座り無言になってしまった。
私は泣き止みたいのに、怖くて苦しくてたまらなくなってずっと、小さい嗚咽を漏らしながら泣いていた。泣けば泣くほど気遣いや優しさを台無しにした気になり、余計辛くなってしまう。気まずい空気を壊すように、無表情の男が「出発します。」と小声で言った後、車は走り出した。なんでこんなに涙が止まらないんだろう。私はとうとう泣き疲れて眠ってしまった。
どれくらい眠ったのかは分からないが、ボソボソと誰かが話す声が聞こえる。ゆっくり目を開けるとそこはまだ車の中だった。後部座席から見える赤い口紅の女性は、この時初めてサングラスを取っていた。
初めて見る素顔は、思ったより優しく見える。無表情の男に対して「私はいつも強い言葉を使ってしまう…ダメね…ハァ…」とため息混じりに話しているのが分かった。無表情の男は運転しながら適当に「あー…まぁ、そーですね。」と相槌を打っているのだが、すぐに「あー…起きたみたいですよ。」と、こちらに気がついた。
赤い口紅の女性は急いでサングラスをつけて姿勢を正す。それを見て無表情の男は「あーぁ。」と言い、残念なものを見るような目で女性をチラッと見た。それに対して赤い口紅の女性が「な、何よ!!」と焦りながら言い返した。
そのやりとりが何故か凄く愛しいと感じて、安心感に包まれると同時に目が覚めた。一体何の夢なのかは分からないが、不安になったり恐れたり、安心したり愛しさを感じたり、不思議な夢だった。目覚めた後もしばらく、誰かに凄く大事にしてもらったような満足感が続いていた。
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