No.15 ピエロと僕(ユメミタ)

気がつくと僕は、長い間放置されたであろう、埃っぽい舞台の上の椅子に座っていた。この場所がどこなのか、自分自身が誰なのか分からないまま、椅子を立とうとした。すると、自分自身の姿が少し分かった。
赤白のストライプ模様の半ズボンに、元は真っ白だったと思われる汚れたタンクトップ、そして何より自分自身が小太りのおじさんと言う事が分かった。
「あれ?僕はこのおじさんを知らないぞ」と、思いながら椅子からゆっくりと立ち上がり、外へ出てみる事にした。外へ出て気がついたが、僕が居た場所はサーカス小屋だった。錆びた動物小屋や、破れた天井などが目に映った。まるで、僕だけがそこにとり残されたかのような感覚に陥り、場面が変わる。
気がつくと僕は「少年」になっていた。両親と思われる男女と共に、楽しい気持ちでお出かけをしていた。周囲には華やかな風船売りや、様々な屋台が立ち並び、沢山のお客で賑わっていた。着いた先はサーカス小屋だった。
少年になった僕は、先ほどのおじさんだった時の事は忘れており、心から喜んでいた。両親に赤い風船が欲しいと言って、アコーディオンを弾きつつ風船を売っていたピエロから赤い風船を受け取り、テントの中に入った。
サーカスはとても煌びやかで、ワクワクする演出ばかりだった。さっき風船を売っていたピエロも出演しており、僕は嬉しくなって「ピエロさん!」と手を振った。ピエロはコチラを見て、手を振り返してくれた。
サーカスを見終えた後、出口へ向かう途中に、先ほどのピエロが僕の肩を叩いた。声は出さないが、パントマイムで「この中を案内してあげる」という動きをしたので、両親に「ピエロさんと遊んできていい?」と聞いてみた。
丁度、知り合いとばったり会った所だったのか、両親はすでに話し込んでおり、「ご迷惑をおかけしないように」と注意1つで、許可が下りた。ピエロと一緒に、サーカスの舞台裏を見て回った。先ほど見た煌びやかな雰囲気とは違い、舞台裏は薄暗く、僕が怯えるたびに、ピエロは簡単な手品をしたり、面白い動きをして楽しませてくれた。
ひとしきり見終えようとした時、そういえばピエロ以外に誰にも出会っていないなと思い始めていた。そして、舞台裏には、小さな舞台がもう一つあり、そこには椅子が1つ置かれていた。ピエロは手招きをして、僕をその椅子へと座らせた。
その椅子にはスポットライトが当てられ、まるで自分がヒーローになったかのような、高揚を感じた。ピエロは僕の後ろに立ち、「今日は楽しかったかい?」と初めて声を出して話しかける。落ち着いた大人の男性の声で、凄く安心するような優しい声だった。
僕は「うん!とっても楽しかった!」と答えると、ピエロは「ずっとここに居たいって思う?」と、問いかけてくる。僕はまた「うん!もちろん!」と、とびきりの笑顔でピエロの方に振り向こうとした…次の瞬間スポットライトが落ち、耳元でピエロはこう囁いた。
「じゃあ、僕の代わりになってくれるね?」
暗闇があけると、僕はおじさんに戻っていた。あの薄暗い舞台裏の小さな舞台の上で、また椅子に座っていた。椅子の足元には赤いゴム風船のゴミが落ちていた。それを見ると、とてつもなく懐かしい気分になる。
風船を拾い上げると、僕の頭の中にアコーディオンの音色が流れてきた。僕がまだ少年だった頃、あのピエロが風船を売りながら奏でていたあのアコーディオンの音色が。
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