No.204 大粒の雨(女性・28歳)

不思議
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わたしは走っていた。喉に息が絡まるほど全速力だった。
辺りは暗かった。夜ではなく、分厚い雲が太陽を隠してしまっていた。どうしてか、早く行かなければいけないと必死だった。目的地も理由もないけれど、その意志が身体を操っていた。
その道は狭く土のままで、畦道に似ていたけれど景色はよく覚えていない。
大して残っていなかった体力も底をつき、わたしはいよいよ立ち止まった。膝に掌を押し当てて、地面を睨みつけ、尋常ではない速さの心臓の鼓動が頭に響くのを聞いていた。
ーポツ、ポツ。
土に黒い点が現れた。酸欠で思考が停止していたわたしはその事実をただ睨んでいた。降りはじめた雨粒は、時折わたしの旋毛や手の甲を跳ね、そして「降り出したな」と思う間もなく全てを濡らしていった。
わたしはその一部始終を見届けると、「ああ、もういいか」と、あんなに急いていたのが嘘のように凪いでしまった。ふと、辺りが明るいことに気がついた。この土砂降りで?変だな。その違和感に顔を上げた。
初めて見る雨だった。晴天の土砂降りの中を、いくつかの大きな雨粒がゆっくりと降り落ちていく。それはビー玉くらいの大きさで、プリズムが滲んだようなマーブル模様を表面に浮かべ、太陽を反射して煌めいていた。
そのあまりの美しさに呼吸も言葉も忘れてしまった。わたしは今何を見ているのだろうと、誰に問うでもなく繰り返し思いながら立ち尽くした。
どれくらいそうしていただろう。目線の先、ずっと遠くの空に一際大きなソレが降り落ちて、鉄塔の先端に触れて粉々に壊れた。そしてキラキラの霧になり、雲ひとつ無い青空にすうっと消えていった。
それを見届けると、眠りから目が覚めた。
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