No.12 島に定住した理由(男性・49歳)

穏やか
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私は、日本全国をまわる旅に出て、宿には泊まらず車中泊をしていた。金欠になればその地域で短期間の仕事をしながら気に入った場所があれば長く滞在したりなど、あえて計画は立てないで気の赴くまま放浪していた。
北から南下していき、九州北部にたどり着いたとき、生活費が底を尽き、短期間で稼ぎになる仕事が見つからないか探していたところ、本土から船で1時間ほど離れた島で1日数万円稼げるという仕事を見つけた。早速、車を置いて島に働きに行くこととした。収入が良い仕事なだけに、厳しい環境が予想されたので、まずは1週間だけ行くつもりだった。
島では、日雇い労働者が寝泊まりする宿舎もあり到着したその日から肉体労働が始まった。過酷で危険な作業ながらも親切な人が多く1週間もすると、その場所に、やけに馴染んだ。宿舎から眺める海に沈む夕陽の光景はとても綺麗だし、衣食住にも困らない。長い間ここに居てもいい感じもしてきた。
しかし他にも、この島に居続けたい理由があった。毎日作業が終わると事務所に行き、作業完了報告をする。その事務所に行くのが楽しみになってきたのだ。何故か、汗臭い労働者が作業をするこの島にはおよそ似つかわしくない、容姿端麗なある女性職員が事務所にはいて、必ず作業完了の報告を行う。毎日それが楽しみであった。
ある日、本土に置いてきた車が気になり、休日に船に乗って気晴らしも兼ねて久しぶりに本土に戻ろうとした。その船中に、たまたま女性職員も乗っていた。挨拶はするものの普段は「作業完了報告」のみで、会話はできなかったので、今だとばかりに彼女に話しかけた。
「本土に着いたらレストランへ一緒にいきませんか?御馳走しますよ」と、話しをしたところ、了解を得た。どうやら、彼女は本土にある実家へ帰省する最中だったとのこと。
レストランで食事をして、その日は別れた。私も彼女もそれぞれ本土での用事を済ませ、また狭い島内へ戻り、いつもの作業がはじまる。島内では彼女と人目を凌ぎ会うのもできなかったので、定期的に本土で会うようになった。
そして籍を入れて島で一緒に暮らし、海に沈む美しい夕陽を2人で眺めるシーンで、夢から覚めた。
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