私は白い花の咲く野原のような場所にひとりで立っていた。とてもキレイなところなのだが、足元がふわふわと心もとない感覚がして、うまく歩けないでいる。ふと遠くのほうに目を向けると、長く曲がりくねった階段が見える。階段は空へと伸びていて、その場所は白い花とは対照的に、暗く陰って見える。
その長い階段の先に「Y先生」の家が建っていた。Y先生とは、私が子供のころからお世話になっていたかただ。とある大学の教授を務められていたことから、「先生」付けで呼んでいた。
Y先生はある日、心筋梗塞のため自宅で孤独死なさった。私はちょうどその頃、海外を旅していたために、葬式にも間に合うことができなかった。そのY先生の家が、天に向かう階段の途中に建っている。
夢の中ではY先生が、もうこの世にいないという事実は覚えておらず、私はY先生に会うために階段に向かって歩くことにした。階段のもとに辿り着くと思った以上に古い木材でできていて、ところどころ朽ちてもいる。
1段1段、注意深く階段を登っていく。徐々に目線が高くなり、下をのぞき込むと、足がすくむほど高い場所に居た。下を見ても、暗い空間がぽっかり空いているだけで、他にはなにもない。しかし、この先にY先生がいるのだからと思って歩き続ける。が、Y先生の家へつながっていると思っていた階段は、途中で途切れていた。
どうやったって途切れた階段の向こう側には行けそうにない。Y先生の家は変わらずそこに建っているのに、私は二度と家に入ることはできないのだ。
そう思って、悲しく苦しい気持ちのまま目が覚めた。とても苦しく悲しくなる夢だったけれど、この夢は私に「Y先生の死」を受け入れさせるために見せたものかと思っています。