No.79 祖父の伝えたかった言葉(男性・28歳)

悲しみ
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私は現在一人暮らし3年目の社会人。25歳までずっと実家に住んでいたが3年前に仕事の都合で初めて一人暮らしをはじめた。
ふと気が付くと私は実家の家周辺を歩いている。どうやら、仕事が終わり帰宅途中らしいのだが意識がはっきりせず、ただ足だけは実家の方向に動いている。
実家に到着すると、3年前当初のように母親が「お帰り」と声をかけてくれるのだが、私の口は動くのに思うように声が出ないのである。
そこから25年間過ごした見慣れた実家の中の空間を彷徨い始め、また見慣れた扉の前に私はたたずんでいた。それは、今は母親の部屋になっているが、私がもの心ついた時から祖父が亡くなる5年前まで「祖父の部屋」だった場所。私の手は無意識にその部屋の扉を開け、中に入っていく。するとそこには、生前の祖父の姿があったのである。
祖父は昔から歌謡曲が好きで、自前のカラオケ機器やレコードプレイヤーも持っていたのだが、元気だったころの祖父の姿のままで私をレコード片手に見つめていて、何かを言っているようだが聞き取れない。聞き取れず困惑している私を寂しそうに祖父は見つめていた。
ここで私は自分が夢の中であることを自覚したのだが、おじいちゃん子で育った私は亡くなってから5年の月日がたち、これまでの事や今の気持ち、あれから大人になって感じた思い思いのことを話したくて、夢から覚めぬように考えるのをやめた。
すると当たりが一瞬ぱっと明るくなり、夢から覚めてしまうかと思ったが、そこにはまだ亡くなったはずの祖父の姿があった。だがその姿は、生前の元気だったころのものではなく、亡くなる直前に入院後一時帰宅したときの姿で、ベッドに横になっていた。
何とか声をかけようと話してみるがやはり夢の中の私の口からは声が出ることは無く、強く声を出そうとすると何故か口から白紙が吐き出されるのであった。
少しでも亡くなった祖父と話したくて、私は必死に声を出そうとするのだが、何度やっても口からは紙ばかりが吐き出され、足元は口から吐き出された白紙で埋まっている。祖父も亡くなる直前の弱った様子で「あー、あー」と言葉にならない声を出し、私を見つめ何かを伝えたがっているように感じた。
やるせない気持ちで私は泣きながらも、「おじいちゃん!」と声を出そうとすると急に目が覚めてしまい、起き上がると現実の私の目にも涙があふれていた。祖父は私に何かを伝えたくて現れたのか、知りたくても夢の中では知ることができない。
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