がれきになった街の中を私たちは集団でさまよっていた。夜の闇の中月あかりだけがたよりだったが、時々雲間から現れる満月の明るさに少し安心をする。
しばらくがれきの街を歩いていると、空中に大きな唇が無数に現れた。その大きな唇の中には目の玉があり、その目玉で私達を探しては追いかけてきた。その瞬間、私たち集団はパニックになり大きな唇の化け物から必死に走って逃げた。
後ろからの悲鳴に振り返れば、逃げ遅れた人が、その唇のお化けにバクバクと食われている。あまりの恐ろしさに狂いそうになりながらも、大きな唇のお化け達に食べられまいと、とにかく必死で逃げた。
逃げるうちにいつの間にか私は独りぼっちになっていた。そのとき、何か別のものが追いかけてくることに気づいた。背後から「こつーんこつーん」と靴の音が聞こえる。
振り返るとそこに立っていたのはマントを来た男だった。髪は金色の短髪。月を背にして立っていたので目元は暗くて見えなかった。唇がすごく薄くて、大きくて、にやりと笑った口元から大きな牙が見えた。
ドラキュラだった。そのドラキュラは追いかけると言っても決して走ることはしなかった。ゆっくりゆっくりと追い込むことを楽しむかのうように、ニヤニヤ笑いながら一歩一歩ゆっくりと私を追いかけてくる。私はまた急いでその場から走って逃げた。
逃げ延びた先には見知らぬ謎の青年がいて「壊れずに残ったビルの中に逃げるように」と、導いてくれた。青年に「ありがとう!」と告げ、私はボロボロになったコンクリートの階段を必死で駆け上がった。
ビル3階の踊り場付近で、さきほど助けてくれた青年と思われる人の叫び声が聞こえる。私は直観で「彼はドラキュラに見つかったんだ!」と気づいた。
恐怖に震えながら息をひそめて踊り場に座り込んでいたが、ドラキュラが「こつーんこつーん」と靴を鳴らしながら、ゆっくりと近づいてくることがはっきりと分かった。
ここでつかまって、アイツに噛まれて殺されるくらいなら、この踊り場から飛び降りて自分自身で人生を終わらせよう。私の視界にアイツの金色の髪が見えたとき、私は踊り場の崩れた壁の隙間から、外に向かって身を投げたのだった。