これは高熱を出し、ふわふわとした気分で眠りについた子供の頃の夢の記憶。
寝ているのか起きているのか分からない感覚の中、薄目を開けると部屋の角に綺麗な光が見える。何だろうと思い、その光をじっと見ていると光の周辺から沢山の能面が浮き上がってきた。綺麗な光の周りで浮遊する能面に対し怖いと言う感覚はなかったのだ。
しばらくすると光がより一層強くなり、目を手で覆い隠す。怖がりながら瞼を開けると、そこには能面をつけた男性が1人立っていた。男性の姿は平安貴族のような格好で、髪の毛は黒髪の長髪。
急に現れた面識もない男性。きっと生きている時代も違う。そんな能面の男性に対して少し怯えていた私だったが、男性は何をしてくるわけでもなく光の中心でこちらを向いていた。
男性が喋ることは無いし、表情すらも見えないが、なぜか優しそうな雰囲気だと感じた。私は布団の中で男性の方を見ながらぽつぽつ口を開き、男性に色々なお話をした。話の内容は詳しく覚えていないが、話をじっと聞いてくれたのは覚えている。
そして、面白い話では笑顔の能面、悲しい話では悲しそうな能面、怒るような内容の時は、これまた怒る様な表情の能面に瞬時に変わり、こちらの話の内容を表現している様だった。それは、こちらの感情に対し変えていたのか、彼がそう思ったから能面が変わっていたのかは分からないが、何だかクスッと笑えた。
しばらく話していると、熱っぽい体を思い出し、体がだるく頭もクラクラしてきた。能面の男はこちらをじっと見たあと、スッと手を前に出し「こちらにおいで」というジェスチャーをした。白くて細いとても綺麗な手をしていた。
普通ならば怖い!と思うような場面かもしれないけれど、怖い感情はやはり一切感じることはなく、ほんわかするような、安心するような、そういった感覚だった。私は甘えるように、彼の元に近づいた。
すると、ゆっくり私の手を取って優しく抱き寄せてくれた。大丈夫だよと言ってくれているように抱きしめて、背中をトントンと叩いてくれた。私はその瞬間、綺麗な光の中心で温かさに包まれた。
私が安心すると、だんだんと周囲の光が強くなった。直観的に「お別れの時が近い」と感じた。男性は光の中に溶け込んでいく。そうして、あまりの眩しさに私は目を閉じる。再び瞼を開いた時には、朝になっていた。あの部屋の角には男性は居らず、一連の流れが夢であると気がつくのだった。
不思議なことに昨日あれだけ辛かった高熱も嘘のように下がっていた。